ネパール野菜栽培への取り組み

雪に覆われた畑
雪に覆われた畑

2018年12月10日

きっかけは松本市役所農政課からいただいた1本の電話。
問合せいただいた要点は2点で、ひとつめは私たちの取り組む海外の希少野菜の栽培や販売方法について。
ふたつめは、松本市内の山間農地で耕作放棄が広がり、年々山が大きくなっているという実態を打開するために知恵を貸して欲しいというもの。
ひとつめについては現在、私たちが実際にやっている事をありのままお伝えしましたが、ふたつめの課題については正直、全国的に問題になっている事例で、具体的な解決策はまったく思い浮かびませんでした。
会話を進めるうちに、松本市はネパールのカトマンズ市と姉妹都市提携を結んでいること、この姉妹都市提携は今年、30周年の節目を迎えることを知りました。

ネパールの家庭料理
ネパールの家庭料理

偶然にも私たちには松本在住のネパール人が何人か友達にいて、時々畑を手伝いに来てくれたり、ネパール人のホームパーテイーに誘ってもらえたりする事がありました。

畑作業を手伝ってくれる友達のネパール人
畑作業を手伝ってくれる友達のネパール人

彼らから、松本は景色や気候が故郷によく似ていると聞いていましたので、ネパールの野菜を栽培してみてはどうか?と提案しました。
農政課の担当者曰く、全国を見渡しても標高800mを超える農地がある地域はそう多くはないらしく、この立地を逆に強みに変えられれば山間の耕作放棄地の課題解決に繋がると考えました。

チャパティ
ネパールの家庭料理、チャパティを焼いている

2018年12月27日

そうは言っても、ネパール野菜とは一体どんなものがあるのか?
ネットで調べてもこれといった有力な情報はありません。
友人のネパール人に聞いてみたら、ネパールで多く食べられるのは、じゃがいも、タマネギ、小松菜みたいな葉菜・・・。
小松菜「みたいな」!?!?!?
みたいなって事は小松菜ではない?
そこを突っ込んで聞いてみると、小松菜より大きくて野沢菜より小さい葉菜をよく食べるとの事。
私たちの仲間は高齢の方が多いため、重い根菜類をたくさん作る事は作業面から身体的な負担が大きすぎます。
これはこのあと展開していく、過疎化が進む山間地も同様です。
だから、栽培品目は少しでも身体の負担が少なく、希少性と付加価値を見出せる作物を選定しようと考えていましたので、この葉菜を詳しく知りたいと思いました。
しかし、彼は農業に関わっているわけではなく、そこまで日本語が得意なわけでもないので突っ込んだ事を聞こうと思ってもなかなか会話が進みません。
そこから得たひとつのキーワードが「saag」

Wikipediaで調べてみると

サーグ(ヒンディー語:साग、ウルドゥー語: ساگ‎、英語:Saag)とは、ホウレンソウやカラシの葉など青菜、およびそのような葉菜を用いたカレー料理のことである。インドとパキスタンでは、ローティーやナンといったパンと共に食される。ホウレンソウやカラシナ以外の葉菜類を用いることもあり、また味・香り付けのための香辛料などが加えられる。サーグワーラー(Sāgwālā:「青菜の(料理)」)とも呼ばれる。

やはり、広意で使われている単語のようです。
こうなれば、もっと専門知識を持つであろうネパール人シェフに話を聞こうと考え、合同庁舎近くのネパール料理店「ナンハウス」へ。
私たちが「saag」を作りたくて色々調べていると話すと、とても喜んでくれました。
Youtubeから色々動画を探して見せてくれたりもしました。
そうこう話しているうちに、お店の人が「食べてみる?」
私たち「え?あるの?なんで?」

ネパールでは朝晩、毎日食べていたというrayo saagと豆のスープ

やはり彼も日本語はカタコトなので、入手経路の説明はよくわかりませんでしたが、生の状態と調理されたものを出してくれました。
ワサビ菜に似た形状で、口に入れた時もワサビ菜の風味は感じましたがそこまで刺激は強くなく、それよりもコクを感じる野菜でした。
彼はこの葉っぱ?料理?を「rayo saag」と呼んでいました。
ひとまずここまでで理解した内容と取り組み構想をまとめて、松本市役所の農政課と打ち合わせをしました。

2019年1月14日

「saag」に関する知識を深めるためと、栽培した「saag」をどうやって売るか?
この辺りの相談がしたくて、今度は松本市桐にあるネパール料理店「ウェルカム カトマンズ」の店主さんを尋ねました。
前からよく、友達のネパール人と食事をする時はたいていここだったので、店主さんも私の事を覚えてくれていて話が進みました。
彼もまた、私たちが「saag」を栽培したいと話したらとても喜んでくれ、「家族で畑に手伝いに行くよ」とか、「同じようにネパール料理店を経営している友達が日本のあちこちにいるので、声掛けるよ。」とか、頼もしい限りです。
そして、松本市役所の都市交流課には10年以上の付き合いになる担当者がいるから、一緒に挨拶に行こうと言ってくれました。

ネパール料理店「ウェルカムカトマンズ」の店主ご夫婦と
ネパール料理店「ウェルカムカトマンズ」の店主ご夫婦と

ところで、植物の種を輸入するには検疫を通さなければなりません。
ひと事で「saag」と言っても小松菜やわさび菜のようなものからクレソンのようなものも「saag」と言われていますので、今回は比較的検疫の通りやすい「アブラナ科」に属する「saag」に絞ります。
通常、野菜の種を輸入する際には海外の種苗メーカーに対し「日本に〇〇の種を輸入したいが、日本の求める基準に則って検疫証明書を発行してもらえるか?」と問い合わせれば話は進んでいくのですが、今回は種苗メーカーではなくカトマンズ市の農政担当へ依頼をかけるので、手続き方法がわからず後回しって事にならないようにできるだけ具体的にかみ砕いて伝える必要があります。
「アブラナ科」は輸入時の検疫が比較的緩和されていると聞きますが、具体的に日本はどの程度の検査を輸出国に求めているのかを確認するため、成田の植物防疫所に連絡しました。
担当者と話してみると「通常の検査だけで大丈夫」「輸出側がその内容は理解しているから大丈夫」との話で、具体的な検査内容や必要な記載事項については教えてもらえません。
今度は名古屋の植物防疫所に電話して話を聞いてみたところ、特別な条件がつかない限り、インターネットなどでも通常の検査のみとの表記で、その内容を開示してはいないとの事。
そこで、個人情報にあたる部分は伏せてもらった上で「アブラナ科」の種子を輸入したときの検疫証明書のサンプルをもらえないか?と頼んだところ、これはいただく事ができました。
イタリアから輸入したときのもので、イタリア語で記載されていました。

2019年1月23日

ここまで得た情報と取り組み方法は
・高所地だからこそ栽培できるネパールの野菜に取り組む。
・ネパールの野菜の中でも高齢農業者にとって比較的身体的な負担が軽い葉菜に取り組む。
・葉菜の中でも種子が比較的容易に輸入できる「アブラナ科」を選定する。
・今年、春作と秋作の両方を試験栽培し、進捗状況を市役所農政課と共有する。
・販売については、ウェルカムカトマンズ店主の人脈と、ゆめクジラの既存取引先レストランや青果卸業者へ案内し、反応を見る。
こうした構想を持って、ウェルカムカトマンズの店主さんと松本市役所の都市交流課の担当の方を訪ねました。
話を聞くと彼は、1月29日明け方の便でネパールへ飛び、姉妹都市30周年記念の式典に参加するとの事。
そしてその席には、松本でネパールの野菜を栽培したいという話に関心を持たれた、先方の農政を担当される方も同席されるとの事でした。
その話を聞き、私たちのおもいを手紙にして松本から持って行ってもらう事にしました。

松本市役所都市交流課とnamaste
松本市役所都市交流課と一緒にnamaste

2019年1月24日

さっそく次の日、手紙を書き始めました。
まずはgoogle翻訳を使いながら、日本語と英語とネパール語で手紙を書きます。
こういうのって案外、意味不明な翻訳になっていたりするので、書き上げた手紙はウェルカムカトマンズの店主、Khattriさんにチェックしてもらいました。
彼は日本語があまり得意ではないので、英文を見てもらいながらネパール文を修正していくという作業です。

翻訳アプリ
日本語が得意ではない彼との会話には翻訳アプリが大活躍。

すると・・・やはりほとんどバツ!!
Khattriさんの息子さんが出てきてノートを取り出し、文法や文字をひとつずつ丁寧に教えてくれました。
これを手書きで書き写し、気づけばあっという間に4時間経っていました。

ネパール文字の手紙
下書きは活字でも、仕上げはやっぱり手書きです。

2019年1月25日

新しいことを始めようと思ったら、自分の常識を疑うところから始めます。
ネパール野菜の栽培に取り組もうと決めたときから色々学ばなければならない事があり、新しい出会いと協力があり、今まで考えたこともない気づきがありました。
現段階でやれる事を100%やりきれたのかどうかはわかりません。
でも、ここから先は種を手に入れてからでないと進みません。

友達であるネパール人にこの話をすると、「誰か友達に頼んでsaagの種を手に入れようか?」と言ってくれます。
そんな心遣いがとてもありがたいのですが、目的はただ種を手に入れるのではありません。
国境を越え、二つの自治体の連携によって検疫の問題などをクリアすることも大事なプロセスなのです。
こうして自治体と連携をとってすすめる事が将来、松本で栽培されたネパール野菜の価値向上につながり、山間農地の活用にもつながります。

私たちのおもいを一通の手紙に込め、現地に赴いた市役所の担当者がきっと良い結果を持って帰ってきてくれることを信じます。